2016年11月28日月曜日

二重標識水法 その4 グルコースの完全酸化を究める (その2)の続き

今回は、グルコースの完全酸化で生じるCO2Oの由来についての話です。話の切り出しに、(その1)の反応式を再掲します。
C6H12O6 + 6 H2O → 6 CO + 24 H+ + 24 e-   ・・・反応式2
この式からは、グルコースとH2OからのO1原子ずつ使ってCOが生成するように見えます。それで、(その1)の記事で「グルコースの好気的酸化においては、反応式2の過程でH2OO原子1個がCOに取り込まれますが、・・・」と書いてしまいましたが、これは正しくないことに気づきました。結論を先に述べると、6 COのうち、4COグルコースとH2OからのOを、2COはすべてH2OからOを使って生成します。8分子のH2Oが使われることになって反応式2の左辺と会いませんが、解糖系でグルコース由来のHOを使って2分子のH2Oが生成するので矛盾しません。解糖系で炭素骨格から遊離した分のH2Oがクエン酸サイクルのフマラーゼの反応で炭素骨格に戻されることになります。この点を考慮して反応式2を、次のよう表すと現実に近いことになります。
C6H12O6 + 8 H2O → 4 COO + 2 COO + 2 H2O  + 16 H+ + 8 H+ + 24 e-・・・反応式11
COO原子の由来は、(その3)の「4水の役割」に書きました。それを繰り返しつつ話を進めます。COO原子の由来をたどりやすくするために、(その1)の図3に炭素骨格の変化と代謝経路で取り込まれたOの行方をハイライトしました。これを図7に示します。
7代謝中間体の炭素骨格の変化と、代謝経路で取り込まれたOの行方。

 ①   反応6において PiHOPO32)のO原子1個が1,3‐ビスホスホグリセリン酸のカルボキシル基のOとなり、ピルビン酸のカルボキシル基のOとなります。このカルボキシル基のもう一つのOはグルコース由来です。ピルビン酸の酸化的脱炭酸反応(反応11)によってカルボキシル基からCOができます。
 反応12において シトリルCoAの加水分解で使われるH2OO原子は、クエン酸のカルボキシル基に入ります。同じカルボキシル基のもう一つのOはグルコース由来です。このカルボキシル基は、コハク酸のカルボキシル基となり、次のサイクルで代謝されるてCOになります。
   反応16によって、 PiO原子1個がスクシニルリン酸のリン酸と結合したカルボキシル基のOとなり、コハク酸を生成します。カルボキシル基のもう一方のOは、前回のサイクルで反応18によって生成したリンゴ酸のOH基に由来します。このカルボキシル基は、次のサイクルにおいてCOになります。
   反応18によって H2Oがフマル酸の二重結合に付加されてリンゴ酸のOH基となり、リンゴ酸が脱水素されてオキサロ酢酸のケト基になります。このケト基は、次のサイクルでコハク酸のカルボキシル基になり、さらに次のサイクルにおいてCOになります。

①と②で生成する COには、それぞれPiH2Oから1原子ずつOが取り込まれ、③の反応16と④の反応18で取り込まれたO原子が同じCO分子に取り込まれます。したがって、ピルビン酸が代謝されて3分子の COを生成する過程で、4分子のH2Oが使われるので、グルコース1分子から6分子の COを生成するのに8分子のH2Oが使われます。この際、反応616Piの反応はH2Oの反応に相当するとみなします。このことは、(その1)で説明しました。
 最後に、コハク酸の2つのカルボキシル基の形成とCOの生成についてまとめておきます。図7に示すように、一方のカルボキシル基は②において、また他方のカルボキシル基は③において説明したようして作られます。2つのカルボキシル基は立体的に区別できません。そのため、オキサロ酢酸になったとき、ケト基の隣にどちらのカルボキシル基がくるかは確率1/2です。このようなことが起きますが、オキサロ酢酸の2つのカルボキシル基はクエン酸サイクルに入ると、反応1415によってCOになります。

今回は、前回のブログで端折っておいた(その3)の「4水の役割」についてまとめてみました。図3を完璧に理解するには、クエン酸サイクルの反応の立体特異性に留意する必要があります。それ故、以下に付録を書きました。

付録
クエン酸合成酵素によってアセチルCoAとオキサロ酢酸からクエン酸ができる反応(反応12)では、前者のアセチル基のメチル炭素が後者のカルボニル基と縮合します。このときメチル炭素がオキサロ酢酸のカルボニル炭素を求核攻撃する向きが決まっているので、反応が立体特異的に進みます。その結果、アセチルCoAのアセチル基が、図8の説明にあるようにクエン酸をフィッシャー投影式(8D)で表すと、上側の-CH2COO-になります。
8.クエン酸合成酵素の反応の立体特異性。(A)反応前の状態。基質オキサロ酢酸のカルボニル基とこれに結合する二つのC-C結合は平面上にある。面の下側からアセチルCoAのメチル炭素がカルボニルと縮合する。(B)反応後の構造。縮合の結果、中心の炭素原子との間の4つの結合は正四面体の頂点の方向を向き、-OH-COO-は面より上方、二つの-CH2COO-は下方になる。 (C) Bに示す構造を、-OH-COO-が紙面の上方に、二つの-CH2COO-が下方にくるように表す。(D) 同じ構造をフィッシャー投影で表す。横棒が紙面の上方に来る。

クエン酸には-CH2COO-が対称な位置(図8Dでは上と下)にあるため、一般の化学反応では、-CH2COO-で化学変化が起きる場合二つの-CH2COO-は区別されません。しかし、アコニターゼが触媒する酵素反応によってイソクエン酸ができる場合には、一方のみで反応が起きます。その理由は、クエン酸が酵素に結合したとき二つの-CH2COO-の向きが定まり、その一方(図8Dのクエン酸では下側の-CH2COO-)で反応が起きるからです。


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